11. 不動交鋒 歩み寄らざる両者の攻防
春明は、唐突に起きた事態に、頭のなかが真っ白になっていた。
「春明!!」
黒龍が自分の名を叫ぶのが、どこか遠くに聞こえる。
だが、その声は、意識の奥底に甘美な心地良さをもたらした。
(……ああ、そう言えば、こんなふうに名前を呼ばれるのは久しぶり……)
「貴様……どういうつもりだ!?」
黒龍が憎々しげに、こちらを……ジェシスを睨めつけた。
「どういうつもりかって……見ての通りだ。そっちがソフィシエを捕まえてるんだから、こっちも人質を取ってやろうと思ってな。対等な立場で交渉するために」
ジェシスは落ち着き払った態度で答えた。
「対等な立場だと……? ふざけたことを! それでこちらと対等になったつもりか?」
黒龍は相手を見下すように薄く笑んだ。
「貴様が捕えた女が、何をした女か忘れたようだな。殺したいなら殺すがいい! 忌むべき裏切り者を始末してくれるというのなら、処分の手間が省けて助かる」
(……!?)
黒龍の言葉は、春明の胸の奥を鋭く抉った。
彼の言葉は当然のものだ。裏切り者は、いずれにしろ『処分』されるのが定め。
覚悟していたはずだった。今も自分の行動を後悔してはいない。それなのに、どうして……こんなにも悲しくなるのか。
それまで呆然とした顔でこちらを見ていたソフィシエが、ふと口を開いた。
「裏切り者? 天兵を裏切ったってことは……春明、あなた、わたしたちのことを?」
「そうだ。あの凛霞は二年前、貴様から残虐な仕打ちを受けたにもかかわらず、貴様らを逃がそうとした。生来、裏切りなどできるはずもない軟弱者のくせにな……!」
黒龍は、吐き捨てるように言った。
その瞳は、やはり狂おしげな色に染まっている。
「凛霞……おまえの浅薄な思考など、俺には大抵容易く読めるが、唯一わからないものがある。それは今のおまえの心だ。おまえが何を思って裏切ったかなど、理解できない……理解したくもない。どうせ狂っているんだ!!」
「………………………………」
春明は何か一言でも言い返したかったが、喉につかえて出てこなかった。
「ちょうどいい。処分を待たず、おまえの狂気で俺を狂わせる前に、ここで消えろ……」
事実上の死刑宣告を、春明は黙って受け止めた。
自分には、この場で泣く権利も資格もないとわかっている。わかっているのに、瞼の裏から勝手に涙が溢れてくる。言葉は出てこずに、涙が出てくるなんて、情けない話だ。
自分に人質としての価値がないことが、ひたすら残念に思えた。
この身がソフィシエを救う役に立つなら、どのように利用されようと構わなかった。
(だけど……ごめんなさい、ジェシスさん。今の私は、あなたの期待する交渉の道具にはなれそうもないわ……)
一筋目の涙が頬を伝いかけた、そのとき――
「……黒龍。それがおまえの本心か?」
ジェシスの声が響いた。
「本当に、春明を殺してもいいんだな?」
探るような口調。どこか強気で、からかうようですらある。
「ただちに取り消すなら、今の言葉は、とりあえず聞かなかったことにしてやる」
己の期待が外れたことに対する負け惜しみという感じではない。
黒龍は、どういうわけか、すぐに返答しなかった。
春明は、彼の目線が、こちらを真っ直ぐ射ているのに気づいた。
背後から腕を回して自分を拘束しているジェシスには、涙は見えないだろう。
だが黒龍には……。
月光を弾く涙は、薄闇のヴェール越しでも光って見えてしまうのかもしれない。
泣いているのを知られたくなどなかった。
自分が裏切りを後悔していると誤解されるのは困る。泣いて許しを請うような弱虫だと思われるのも癪だ。
しかし、首筋に凶器が触れているため、顔を背けることもできない。
実に無念だ。
と、感じた瞬間、なぜか黒龍のほうが顔を背けてくれた。
「……貴様に、凛霞が殺せるのか?」
彼は伏し目がちに、こちらから目を逸らしたままで言った。その口調には覇気がない。
「ほーお。こっちの問いに問いで返すとは、苦し紛れだな」
ジェシスは愉快そうに言った。
「黙れ! そちらこそ、凛霞を人質に取ったのは苦し紛れだろう。俺は確かに見たぞ……貴様らが、凛霞と旧知の友人のごとく親しげにしているところを。あのとき貴様らは凛霞の素性を悟っていなかったのかもしれないが、何にせよ、他国の影の兵士と馴れ合ったのは事実。あまりに甘い腑抜けだ。そんな貴様に、凛霞を殺めるだけの度胸があるのか?」
「その質問は愚問だ」
ジェシスの声音から、急に抑揚が消えた。
黒龍は顔を上げ、訝しげな目つきでこちらを見る。
「……俺は人殺し専門の影の兵士だからな。腑抜けに見えても、殺るときゃ殺るぞ?」
「……! 貴様、暗殺者なのか?」
黒龍の表情が、わずかに強張る。
(……暗殺者!? ジェシスさんが!?)
春明は愕然とした。
これはきっと、黒龍の心を揺さぶるための嘘だ。そうに違いない。
暗殺者とは――
影の兵士の中でも、とりわけ殺人技術に秀でた能力を持つ者たちの総称。
常に人の血が流される影の戦場においてすら、特殊な地位を占める存在。
このジェシスが、そんな暗殺者の一人だとは……にわかには信じられなかった。
だが春明は、次の瞬間に思い直した。ソフィシエが口にした言葉を思い出したのだ。
(……! 違う、嘘なんかじゃない! だって、あの言葉……)
『優しいことこそが、彼にとって最大の不幸』
(こういうこと、だったの……?)
「……口先だけの言葉じゃ、信じられねえか? なら見せてやるよ。俺が、どの程度本気なのかを」
黙り込んだ黒龍に対して、ジェシスが言った。
春明の右腕をつかみ、相手に見せつけるように掲げる。そして首筋から短剣を離す。
途端、春明の右手首の上で、刃物が滑った。
あまり痛みは感じなかった。浅く肌を切られただけ。それでも、少し血が流れ出した。
「止めて!」
悲鳴のような声を上げたのは、ソフィシエだった。
「ジェシス、あなた正気? わたしを助けようとしてくれてるのはわかるけど、黙ってるにも限界があるわよ。春明は、仲間を裏切ってまで、わたしたちを逃がそうとしてくれたんで
しょ?」
「……ソフィシエ。おまえは、ずっと黙ってろ。俺は全くの正気だ」
「ジェシス!!」
ソフィシエの非難めいた叫びを無視して、ジェシスは黒龍に尋ねた。
「どうだ? 少しは交渉に応じる気になったか? まだこっちの本気が実感できねえなら、次は指の一本でも切り落とすからな」
「止せ!! そんなことをしてみろ、すぐさま狠毒娘娘を同じ目に遭わせてやるぞ!」
黒龍は、意外にも余裕を失った態度で叫んだ。それとも、そう見えたのは、春明の錯覚に過ぎないのだろうか。
「へえ。春明を殺すのはよくても、指を切り落とすのは駄目なのか?」
「………………………………」
黒龍は沈黙した。彼はさっきから、口を閉ざしてばかりいる。
「春明を『殺したいなら殺すがいい』なんて、発作的に口走った台詞だろう。本心からの言葉じゃねえな。口から出任せにものを言ってると、後で途方もなく後悔するぞ?」
ジェシスは、黒龍とは対照的に、澱みなく喋り続ける。
「いいか、おまえは今、鏡を見てるようなもんだ。おまえがソフィシエに対してするのと同じことを、俺は春明に対してする。それを理解した上で、改めて行動を選択しろ」
「……俺が狠毒娘娘を放すなら凛霞を放し、殺すなら凛霞を殺す、か……」
「そういうことだ。やけに回りくどくなったが、ようやく質問できるな。春明の命と自分の復讐、おまえはどっちを選ぶ?」
ジェシスの問い掛けは、春明にとっても最後通告だった。
黒龍は、どこか苦しげな顔をしている。内心で葛藤しているように見えなくもない。
しかし春明は、今更、彼が自分の命を選ぶとは思わなかった。思えなかった。
ジェシスは口から出任せなどと言ったが、先刻『消えろ……』と告げたとき、彼は本気だった。それは間違いない。涙を見たくらいでは……多少気が咎めたとしても、心変わりすることはあり得ないだろう。
(私は、私を信じていた彼を裏切ったんだから。一族の、他の人間と同じように……)
異様に長く感じられる静寂の時間が過ぎた後、黒龍は、おもむろに口を開いた。
「……俺が選ぶのは、復讐だ。狠毒娘娘は解放しない。無論、貴様も逃がしはしない!」
春明の予想通りの答えを、黒龍は紡ぎ出す。
「交渉は、決裂だな……!」
それを聞いても、もう涙は零れない。
背後で、ジェシスが短く息を呑んだのがわかった。
自分を捕える腕から、一時だけ、力が抜ける。だが、手首を切ってから首に戻されていた短剣は、そのまま動かなかった。
「自分にとって大事な人間を犠牲にしてまでも、復讐を遂げたいのか……。とんでもない野郎だな、おまえは」
ジェシスは、驚愕と悲嘆が入り混じったような声音で言った。『やるせない』という表現が、ぴったり当てはまるような……。
(……どうして、ジェシスさんはこんな言い方するのかしら?)
ジェシスには、黒龍のことを『同僚だ』としか教えていないはずなのに。まるで自分と彼の間にある特別な関係を全て見透かしているかのようだ。不思議だった。
「どうした? 凛霞を殺すというのは、やはりこちらを惑わすための虚勢だったのか?」
黒龍は、ひどく昏い笑みを浮かべている。やけに粗暴で、投げ遣りな口調。
奇妙に冷静な気持ちで、春明は幼馴染みの青年を観察した。
この状況で絶望するのはジェシスの側であるはずなのに、なぜか、より追い詰められているのは黒龍の側のように見えてくる。
「交渉決裂には、まだ早い。どうも一筋縄ではいかねえみたいだからな……こっちも観念して、一歩譲歩してやるよ」
ジェシスは、さばさばした口調で告げた。黒龍とは正反対の、前向きな態度だ。
こちらの様子を見守っていたソフィシエが、ジェシスの言葉に反応した。頭をわずかに持ち上げたのだ。監視するような強い眼差しが、一層鋭くなる。
「譲歩だと? もはや交渉の余地など残されてはいないのに、どう譲歩するつもりだ?」
黒龍が馬鹿にするような調子で尋ねた。
「まあ聞け。おまえがソフィシエを解放し、無事にサーヴェクトに帰すなら、この俺の命をくれてやろう」
ジェシスが言った瞬間――ソフィシエが、すっと目を細めるのを春明は目撃した。
「おまえがそれで妥協するなら、春明はこれ以上傷つけないで解放する。俺だって、正真正銘『国家守護者』だからな。天兵たちの復讐心を満たす足しにはなるはずだ。何で恨まれてるのかは見当もつかねえんだが、実際、恨まれてるようだから仕方ねえ」
「ジェシス!! 陳腐な冗談はそこまでにして。あまりにひねりがなくて、笑えないわよ」
ソフィシエが冷淡な瞳でジェシスを見据え、凄みのある声で言った。
「う……確かに陳腐なのは認める。だが、俺はクレバーほど頭の出来が良くないからな。これより気の利いた冗談が思い浮かばねえんだよ」
ジェシスは全く気負わずに、あっさりと受け流した。
少年と少女の遣り取りを眺めていた黒龍が、不意に喉を鳴らして笑い始めた。
「ほら見ろ、ソフィシエ。こんな冗談でも、受ける奴には受けるんだ」
「こんな寒い冗談で笑うなんて、よっぽど笑いに飢えてるのね」
ジェシスとソフィシエが、互いにぼそぼそと会話する。
「この世に自らの命を捧げて狠毒娘娘を救おうとする人間が存在しているとはな……」
黒龍は笑いながら呟いた。嘲っているというより、心底おかしがっているようだ。
「あのな……そこまで笑うようなことでもねえだろ? おまえにとっては憎い敵でも、俺にとっては大事な仲間なんだからな」
ジェシスは大真面目な様子で黒龍に抗議した。
「……それはまあ、もっともだ。笑ったことは詫びよう」
黒龍は、笑いの余韻が残る口調で謝罪した。驚いたことに、ついさっきまでに比べて、やや毒気を抜かれたような顔つきになっている。
そんな黒龍に向かって、ジェシスは忠告めいた言葉を投げ掛けた。
「それにな、おまえ笑ってる場合じゃねえぞ。俺はおまえのためを思って、ソフィシエを解放しろって言ってやってんだ」
「ちょっと! 何言うつもりなの!?」
ソフィシエの怒鳴り声を例のごとく聞き流し、ジェシスは続ける。
「その女は一見、嗜虐心をそそりそうな姿形をしてるが、実はサドの天敵でな。こいつにかかると、いつの間にか被害者と加害者の立場が逆転する。煮ても焼いても歯が立たない上に、猛毒を持ってるもんだから、料理しようとする側が精神的に参っちまうんだ。その証拠に、そいつと耐拷問訓練で組まされて加害者役に回った奴は、一人残らず倒れて病院送りになってるんだぞ。精神的なストレスでな!」
「あることないこと言わないで!」
「全部あることあることだ! 俺もサドを喜ばせるような殊勝な心掛けを持った人間じゃねえけどな。少なくとも、その女よりは無害だぞ。おまえも急性胃炎か何かで入院したくなかったら、そいつには手を出さないことだ。俺にしとけ……」
奇妙だが、かなり迫力のある脅し文句だった。本来なら真に受けないような表現でも、ソフィシエのこととなると、真実味が違う。
(たぶん、九割くらいは本当なんでしょうね……)
春明は、半ば確信していた。
「わざわざ親切極まりない忠告、痛み入る。しかし、それを受け入れることはできない」
皮肉げに言いながら、黒龍は値踏みするような視線をジェシスに向けた。
「貴様もそこそこ骨があって、嬲りがいはありそうだがな。あいにく、俺は嗜虐趣味から狠毒娘娘を苛もうとしているわけではない。恩には恩、仇には仇で徹底的に報いるのが、天華人の気風だというだけだ。俺にとっての復讐相手は、あくまで狠毒娘娘……」
「だそうよ、ジェシス。もういいから、わたしの身代わりになろうなんて考えは捨てて」
ソフィシエは、嘆くでもなく平静に命じた。
「わたしだって、こんな『いやな顔』の男の言いなりにはなりたくないけど……それ以上あなたの手で春明を傷つけないで。春明を離して、あなたは、この場から離脱するのよ。それが、影の兵士として求められる当然の判断……できないなんて、言わせないわ!」
威圧感すら伴った冷厳な声音で、ジェシスを叱咤する。
「ソフィシエ……それはできねえ」
その返答を聞いた少女の表情が、ぐっと険しさを増す。
だが、彼女の口からさらなる叱咤が飛び出す前に、ジェシスは先を続けた。
「なぜなら、その男は方術士だ。俺が走って逃げ出そうとしたところで、おそらく簡単に取り押さえられる。おまえを叩き起こすのにだって術を使ったんだぞ。おまえ、そいつの顔は忘れても、二年前に戦った天兵のなかに方術士がいたってことは覚えてるよな?」
「……!?」
ソフィシエは目を見開いた。
「少しは状況が呑み込めたか? だから俺は『影の兵士として求められる当然の判断』で、その男と交渉してんだよ。一人でも生きて帰還しねえと、任務は未完遂になるからな」
みるみるうちに、少女は呆れ返った面持ちになった。
「それなら、あなた、まず自分が帰還できるように交渉するのが筋でしょ!? この『いやな顔』の復讐の標的はわたしなんだから、そうするほうがずっと交渉成立しやすいわよ」
「……まったく、その通りだな、狠毒娘娘。ところで、『いやな顔』とは何だ?」
黒龍が、左手の短刀と少女の身体との間の距離を縮めながら訊いた。
迫る刃を目にしても、ソフィシエは顔色ひとつ変えない。
「ジェシスの渾名が『こわい顔』だから、あなたは『いやな顔』にしたの。二人とも悪人面には違いないんだけど、印象はずいぶん違うわ」
「ほう。俺の場合は、顔に内面の嫌らしさが表れているとでもいうのか?」
「あら、自分でも、よくわかってるのね。女の子に必要以上の暴言を吐いて、傷つけて、泣かせて、その揚げ句に見捨てるような男には、『いやな顔』で十分よ!」
容赦ない糾弾を浴びて、黒龍は一瞬、たじろいだように見えた。表情が、複雑に歪む。
「春明……あんた、いつ泣いたんだ?」
耳元で、ジェシスの慌てたような囁き声がした。
「今はもう、泣いてません。気にしないでください……」
春明は声を潜めて囁き返した。
こちらの首筋に刃を押し当てていながら、そんなことを気に掛けるのが、いかにもジェシスらしいと思った。
黒龍は眉根を寄せ、思案深げな面持ちになって少年と向き合った。
「……貴様は、俺が狠毒娘娘を解放すれば、凛霞を解放し、なおかつ自分の命をこちらに渡すと言ったな?」
「……ああ」
「凛霞をそれ以上傷つけずに放すと確約するなら、貴様の譲歩、受けてやってもいい」
(え……!?)
思いも寄らない黒龍の台詞に、春明は動揺する。
「ただし……俺が解放するのは、狠毒娘娘ではなく貴様のほうだ。凛霞の身柄と引き換えに、貴様を見逃してやろう。狠毒娘娘を置いて、早々に天華から去れ」
「なっ……!」
ジェシスの口から、困惑と怒気が入り交じったような呻きが漏れる。
その直後、彼は激昂を露にして叫んだ。
「ざけんじゃねえ!! 俺をなめてんのか? そんな条件変更に応じるくらいなら、今すぐ春明の喉を切り裂いて、ソフィシエ共々復讐の標的になったほうが、まだましだ」
「そうか……。どうやら貴様は、賢明な影の兵士ではないらしいな」
黒龍の呟きは、呆れを通り越して、ある種の感銘を帯びているようにも聞こえた。
ジェシスの答えを、もとから完全に予想していたかのようだ。
「この脳足りん男!! あなた、いったい、何考えてるの!?」
ソフィシエは赫怒の形相でジェシスを詰る。
「春明を殺して自分も殺されたほうがまし? そんな破滅的な結末を望むなんて、あなたらしくもない……。わたしを置いて帰っても、わたしはあなたを恨まないけど、わたしの目の前で春明を殺したりしたら、許さないわよ! 死ぬまで恨んでやる!」
(ソフィシエ……)
春明は悲喜交々の心境で少女を見つめた。
刺すような切なさのなかで、改めて自覚する。
黒龍も、ジェシスも、ソフィシエも……自分は三人とも、好きだ。
誰も死んで欲しくない。傷つけ合って欲しくない。
そんな甘い感情、戦場では許容されないとわかっていても、本音はごまかしきれない。
どうにかして、三人を救いたい。
(でも、私の力じゃ……!)
春明は苦悩した。迫り来る諦念を押し退けながら、頭の片隅で必死に模索し始める。
――運命を捩じ曲げる方法を。