あとがき&解説
(注)下記の文章は、この作品がオフラインで完成した際につけたあとがきを、ほぼそのまま掲載したものです(一部削除・改変あり)。
はふー、やっと完成いたしました。
相変わらずの遅筆ぶりから、当初の予定を大幅に越える時間がかかってしまいましたが……まあ、ちゃんと完成しただけでよしとしましょう(自己弁護)。
今回の物語を書く上で、技巧的に注意を払ったのは、視点の統一です。ひとつのシーンごとに、ひとりのキャラの視点から状況を描くようにしました。割合としては、ジェシス視点4割、春明視点4割、黒龍視点2割ってとこでしょうか。一応、主人公はジェシスと春明の二人のつもりなんですが、どっちがメインかは微妙ですね。何せ、これだけページ数がありながら、実質的に登場人物が四人、じいさんを入れても五人しかいない小説ですから。メインキャラ四人が全員主人公と言っても間違いではないかと……。
まあ、陰から物語を支配する真の主人公は、言うまでもなくソフィシエですが(笑)。
三人の身体に残る消えない傷痕は、まさにスティグマ。『残酷な女神』と呼ばれる少女に良くも悪くも運命を変えられた証と言えます。
とにかくキャラを立てることを目指した小説なので、登場人物たちを好きになってもらえるかどうかが気掛かりです。ジェシスと黒龍は、徹底して対照的な性格に描いたつもりですが、ふたつのエピローグでは特にそれが際立っていると思います。欲望もあれば野心もある黒龍と、あくまで利他的で禁欲的なジェシス。さーて、どっちが好きですか?
もし、この小説を男性に読んでもらう機会があったなら、ソフィシエと春明のどっちが好きかも尋ねてみたいです。たぶん、九割くらいの人は「春明」って答えるだろうなぁ。「ソフィシエ」と答える人は、クレバーやジェシス並みに忍耐強い人でしょう。
四人のメインキャラについて、作者から一言だけコメントします。
ジェシス……この人は、最初から最後までソフィシエのことしか考えてません。本当にそれだけです。単純明快です。ただし、ロ○コンではありません。
ソフィシエ……自分にも他人にも容赦のない人です。いつもはもっと過激です。こんなにしおらしい彼女の姿が拝めるのは、これが最初で最後かもしれません。
春明……禁断の愛ならぬ禁断の友情に殉じた人です。女性が見違えるほど美しく変身したときは、概して中身も変わっているものなのでしょう。
黒龍……この人はサドです。間違いありません。しかし、言動に注目してみると、自分の性格の歪み具合をある程度自覚している節があります。
この四人のなかで、今回、一番かわいそうな人は誰でしょうか? これも、よく考えてみると、すごく微妙ですね(笑)。
物語の内容その他についても、ちょっとコメントします。
舞台となっている天華島の文化は、中国がモデルです。しかし、中国のように大陸の国ではなく、海に囲まれた島国です。国の面積と言うか、規模は、沖縄県の前身、琉球王国くらいをイメージしています。
作中の『天華語』は、中国語がモデルです。ルビや字体は、中国語として必ずしも正確ではないし、きっと文法的な誤りも多々あるでしょう。いえ、あります(汗)。物語の演出の都合として外国語を借りているわけなので、ご容赦ください。
それを言うと、英語の「弾丸」の正確な発音は「バレット」ではなく「ブリット」だとか、日本語の漢字の意味を考えると「影の戦争」ではなく「陰の戦争」が正しいとか……そういう問題にも発展してしまいます(滝汗)。どうか寛容な心で見逃してください。
作中の中国語の台詞は、意味がわからなくても問題ないように、前後の文脈を工夫しました。ですが一応、ここで意訳(あくまで自己流の意訳)を書いておきたいと思います。
第2章・給仕娘(春明):「ああ、ごめんなさい!」
第2章・ジェシス:「もう一回言ってくれないか? あんたの話し方はとても速い。俺は北大陸の者だ。できることはできるが、俺は天華語があまり上手くない」
第2章・給仕娘(春明):「ああ、あなたは外国の方でしたか! 大丈夫です。私はあなたの話す外国語を話せます」
第4章・店に入ってきた女性客:「まあ、お嬢さん、何て綺麗なのかしら!!」
第5章・黒龍:「狠毒娘娘……必ず始末してやる」
第8章・天兵:「待て!!」
第8章・天兵:「あそこにいたぞ! みんな、来てくれ! 速く!!」
この『休息一下』は、『シャドウ・ジハード特別編』ということで、作者の頭のなかでは外伝的な位置づけの物語です。サーヴェクト関係の物語の主人公は、本来、ソフィシエの相棒・クレバーのはずなので……。今回は、もともと脇役だったジェシスを、主役に抜擢したようなものです。
しかし、序盤の一連のシーンを書いて、後で読み返したとき、作者は「不倫旅行みたいだぁ」と感じてしまいましたよ。だって、モロにそういうシチュエーション……。
ただ、クレバーとソフィシエ、ジェシスとピアスは、どちらも恋人同士ではないです。あくまでも相棒です、相棒。誤解なさらぬよう(笑)。
話の筋そのものは全く複雑ではないのですが、そのなかで敢えて大事なシーンを挙げるとしたら、13章でのジェシスと黒龍との遣り取りかもしれません。あそこでは、個人対個人の価値観の対立を通して、天華対サーヴェクトの構図が見えているので、一番『影の戦争』らしい場面ではないかと。もちろん、作品全体のタイトルでもある『休息一下』の章でのソフィシエと春明との遣り取りも、見どころではあります。
この作品は、作者が何年も前からチマチマと構築し、チマチマと使用してきたキャラや世界観を生かしたものです。よって、物語には直接登場しない人名・国名などが、ちらほらと出てきます。
もちろん、物語を読み進める上では、さほど気にせずとも、筋がわからなくなるということはありません。でも、名前しか出てこないキャラたちも、作者の頭のなかでは、それぞれ人生を持った存在です。この作品を読んで、彼や彼女たちにわずかでも興味を持ってもらえたら、とても嬉しいです。
今回の物語中に出てきた用語で、過去に書いた物語と関連のあるものをいくつかご紹介します。
クレバーとソフィシエが『メラハシュ帝国』に潜入したときの話が、元祖『シャドウ・ジハード』です。『休息一下』から遡ること半年ほど前の出来事で、ソフィシエの肩の『烙印』は、このときにつけられたものです。また、このとき彼女は『縷鋼線』を使って、敵方のクラウの青年と死闘を演じています。
『ルミナス王国』は、『月の涙』というタイトルをつけた物語の舞台である国です。この『月の涙』は、ずいぶん昔に書いたもので、第一章しか完成していません。
ジェシスとピアスが『暗殺者』として暗殺を実行するシーンや、クレバーが『ハイペリオン』の賭け勝負で組織の先輩をやり込めるシーンなんかも、実は以前に書いています。
ただ、過去に書いたこれらの文章は、技巧的に稚拙すぎて、今となっては人様にお見せするのは恥ずかしいです(笑)。
それでは、最後になりましたが、この作品を書く原動力をくれた友人に、スペシャル・サンクスを……。
あなたのくれた一枚のイラストから、この物語は生まれました。
ホントにありがとう!
それから、この作品を読んでくれた全ての読者の皆様にも、深い感謝を込めてお礼申し上げます。
どうか遠慮なく、作品へのご批判・ご感想をお寄せください。たとえ厳しい評価であっても、それが作品を読んで出てきた感想である以上、作者にとっては喜びです。
2003年8月26日(2006年2月10日一部改変) 沙月円