題字

―恋人未満たちの初夜―

Prologue

 ――滅ぼしましょう。あの人を殺した仇を。

 色を失い、かさついた唇が繰り言を紡ぐ。
 うっとりと、歌うように。

 ――断ち切りましょう。呪わしい血脈を。

 潤んだ双眸には、夢見る少女めいた輝きが宿る。

 ――そう……汚れた血を流すなら、今夜と同じ、綺麗な満月の下がいいわ。

 横たわる身体から痩せ細った腕が伸ばされ、虚空を薙ぐ。
 幻の白刃を振りかざすがごとく。

 ――ひそめられた罪を暴いて、曇りなき女神の瞳にさらすの。

 蒼ざめたおもてを彩るのは、くらくも艶やかな微笑み。

 月の満ちた夜に、全てを終わらせる。
 女の最後の望みは誓約となり、意志を継ぐ分身に深く刻み付けられた。